道を以て人主を佐(たす)くる者は

(老子道徳経 上編道経30)
道を以て人主を佐(たす)くる者は、兵を以て天下に強いず。

其の事は還(かえ)るを好む。
師の処(お)る所は、荊棘(けいきょく)焉(ここ)に生じ、大
軍の後は、必ず凶年あり。

善者は果(か)ちて矜(ほこ)ること勿(な)く、
果(か)ちて驕(おご)ること勿(な)く、
果(か)ちて已(や)むを得ずとす。

物は壮(さかん)なれば則ち老ゆ。
是れを不道と謂(い)う。
不道は早く已(や)む。

【大体の意味内容】
 宇宙の「道理」にもとづいて君主の政治を補佐する人は、決して軍事力で世界を強制することはない。
武力行使は、好んで逆襲を招くようなものだからである。
軍隊が駐屯した土地は荒れ果てて荊(いばら)や棘(とげ)を持った草木ばかり生い茂ってしまう。
大きな戦争のあとは、その土地の生産力がダメージを受け、必ず凶作と飢饉(ききん)に見舞われる。

「道理」に従って生きる善者は、勝利を収めても、それを矜(ほこ)って尊大に構えることはない。
勝利を収めても、それで驕(おご)り高ぶることもない。
勝利を収めても、やむを得ず戦ってしまったのだと嘆息する。

 己の強壮さを恃(たの)んで調子に乗るものほど、早く老化し衰亡(すいぼう)への道をたどる。
 このような、「道理」から逸脱してゆくことを「不道」という。
「不道」なる者は、早々に滅亡するものだ。

【お話】
 いままで小説とか映画やドラマ、漫画などで、何万人もの大軍が遠征(えんせい)して戦いあうというストーリーに触れてきましたが、いつも疑問に思うことがありました。

トイレはどうするのだろう?

きちんとした施設などないだろうからあちこちでウンコや小便をたれ流す?

 土にとっては、長い時間をかければ栄養になるかもしれないけれど、その場で寝起きして食事をする兵士たちにとっては、衛生(えいせい)上問題あるでしょう。
 用を足す場所を決めますか。だとしても、十万の軍勢ならば、十万人のウンコと小便です。それを毎日です。本当にどうするのでしょう。遠征で移動していても、駐屯(ちゅうとん)した場所は、十万人分受け取ってしまう。それは荒れるでしょうね。

 食事はどうする?

 大将などのお偉いさんは、専用のコックさんに作らせたようですが、その他の十万人は、自分の背嚢(リュックサック)に鍋(なべ)釜(かま)お椀(わん)を入れて持ち歩き、支給された食料を煮炊(にた)きしていたそうです。
 きちんと支給されているうちはいいけれど、戦いが長引けば補給(ほきゅう)が追い付かなくなることもあります。十万人分毎日ですから。死んだ人が多ければその分楽になりますが、その代わり戦争に負ける可能性が高まるのが悩ましいでしょうね。

 ともかく食うため、生きるためその近辺の農地から食えるものを奪(うば)ってくるしかありません。なくなったら農民その他の現地の人から奪(うば)います。それもなくなれば鳥や獣(けもの)、木の実や草の、口にできるものは何でも食べつくす。ナメクジならばタンパク質の塊(かたまり)だから、まだごちそうの部類だったそうです、そんな状況の場合… 虫でもなんでも生きるためには食うしかないようで、
確かにそんな戦争が終わった後の土地は、大きなダメージを受けるのでしょうね。

 戦って勝つのは下策。戦わずして勝つのが上策、と言いますが、本当にそうです。戦って、勝って、喜んだり自慢したりする者は、「とんだ勘違(かんちが)い野郎」というわけです。

 今どきの「ウルトラマン」はどうかわかりませんが、私の大先輩、金城(きんじょう)哲夫(てつお)が生み出した最初のウルトラマンに、子どものころとてもしびれていました。

 怪獣を倒したウルトラマンが、もしも怪獣を踏みつけてガッツポーズを取ったり、人々の祝福にこたえたりしたらどうでしょう。

がっかりです。

そうではなく、もの言わず夕日のかなたに飛び去る後ろ姿。
その颯爽(さっそう)とした哀愁(あいしゅう)の残像(ざんぞう)にこそ、私たちは何とも堪(こた)えられない痺(しび)れを催(もよお)したのではなかったか。

本当に強いものなら、かくありたいと、願ったりしたものです。