企(つまだ)つ者は立たず

(老子道徳経 上編道経22)

企(つまだ)つ者は立たず、
跨(また)ぐ者は行かず。

自ら見(あらわ)す者は明らかならず、
自ら是(ぜ)とする者は彰(あらわ)われず。

自ら伐(ほ)むる者は功なく、
自ら矜(ほこ)る者は長(ひさ)しからず。

その道に在(お)けるや、余食(よしょく)贅(ぜい)行(こう)と曰う。

物或いは之を悪(にく)む。

故に道有る者は処(お)らず。

【大体の意味内容】

つま先立ちで背伸びする者は、長くは立っていられない。

大股で歩く者は、遠くまで歩き続けることはできない。

自分の能力を見せびらかそうとする者は、世間から評価されない。

自分の考えや行動を正しいと思い込む者は、決して表彰されたりはしない。

自分のしたことを鼻にかけて自慢する者は、まず成功しない。

自分の才能を誇って尊大に構える者は、長続きしない。

根源的な「道徳」の在り方においては、そのようなふるまいは、すべて余計な食べ物であり、

贅肉(ぜいにく)のように不細工(ぶさいく)な行いである。

誰もかれもがこれを嫌う。

本来の道徳を身に修めた者は、そのような無様(ぶざま)な下衆(ゲス)であるはずがない。

【お話】
 テニスの大坂なおみ選手が全米オープンで日本人初優勝を飾ったニュースが世界を駆け巡りました。

いつも天然な受け答えをしている明るい彼女が、
涙を流しながら、自分の喜びは抑えて、
まるで叱られた少女のように、
対戦相手のファンにお詫びしている弱弱しい姿や声が、とても印象的でした。

 大リーグでは二刀流の大谷翔平選手が、日本人1年目としては最多のホームランを打ったというニュースもありました。彼もまた謙虚にふるまう選手として知られています。

 特に大坂選手の場合、本当に何も計算せずに正直にふるまっているのがよくわかります。

対戦相手のセリーナ選手には、子供のころからあこがれていたとか。

でもコートに立った瞬間からは「セリーナファン」ではなくプレイヤーとして「別の人間」になり、
圧倒的勝利を収めてセリーナ選手からハグされたとたんに少女に戻ったそうです。

「勝利した大坂なおみ」の喜びがふわふわ浮遊し、

「敗北したセリーナ」をファンとして悲しむというたたずまい。

 なんとも新鮮な気分になる風景でした。

 あこがれて、純粋に努力する。頂点に達したときに、うれしいのか悲しいのかよく分からない、

いや分かれていない感情があふれてくる。

 いいものですね。美しいとはこういうものかな、と。