類は自ずから雌雄を為す

授業前の素読(荘子四十九 天道篇第十三)
夫れ白鷁(はくげき)の相い視るや、眸子(ぼうし)運(うご)かさずして風化し、虫は、雄(おす)上風に鳴き雌(めす)下風に応じて風化す。類は自ずから雌雄を為す、故に風化するなり。性は易(か)うべからず、命は変うべからず、時は止(とど)むべからず、道は壅(ふさ)ぐべからず。苟(いやし)くも道を得(う)れば、自(よ)るとして可ならざるはなく、焉(こ)れを失えば、自(よ)るとして可なるはなしと。

【大体の意味内容】
そもそも白鷁(はくげき)という水鳥が雌雄で見つめあうと、眸(ひとみ)を凝らすことによって、それで感じあい、身ごもることになる。虫は、雄が風上で鳴くと雌が風下で応えて、それで感じあい身ごもることになる。同類のものは自然と雌雄を為し、花粉が風に乗って受粉するようにして、新しい生命を宿すのだ。自然の性(うまれつき)は移しかえることはできない。天命は変えることができない。時の流れは引き止められない。道が伸びてゆくのを塞(ふさ)ぎ止めることはできない。もしもこの道のはたらきを体得できたなら、どんな場合にも万事うまくいく。しかし、それを手放してしまうと、どんな場合にもうまくいかないのだ。

【お話】
ギリシャ神話ですと、最高神ゼウスが白鳥などに変身して美女に近づき、結婚してしまう物語が多いですが、日本の昔話や伝説には、女性が太陽の光そのものに感精(かんせい)して子どもを宿すといったストーリーが多いです。豊臣秀吉などは、母親が夢で、太陽を呑みこんでしまって、それで実際に妊娠し、生まれた。だから「日(ひ)吉丸(よしまる)」と名付けられた、そういう伝説を持っています。
この『荘子』に限らず、世界共通で、異種類の間で婚姻するストーリーが成り立つ場合は必ず、どちらかがどちらかの姿に嚥下して同類の間での結びつきの形を取ります。日本でも例えば「鶴の恩返し」のように、人間に助けられた鶴が人間の女性の姿となって恩人と結ばれるパターンもありますが、日光それ自体に感精して特殊能力を持った子供を産むお話もとても多いのです。この点に、『荘子』その他の大陸の思想と、日本のような島国の思想との違いが感じられて興味深いです。日本は海に囲まれて、どこか自然と融合しあう、自然界とそのまま混ざり合うようなおおらかさがあるように思えます。自然とは、恩恵をほどこす存在であると同時に、禍(わざわい)をもたらす脅威でもあります。そのような両義性ある存在とも、うまく融合しあう、それが日本という風土に生きる人々の柔軟性であり、したたかさであり、雄大さでもあろうと思われます。