授業前素読 (荘子三十八 天地篇第十二)
道を以て言を観れば而(すなわ)ち天下の君は正しく、
道を以て分を観れば而ち君臣の義は明らかに、
道を以て能を観れば而ち天下の官は治まり、
道を以て汎観(はんかん)すれば而ち万物の応は備わる。
故に天に通ずるものは道なり。
地に順(したが)う者は徳なり。
万物に行わるる者は義なり。
上にして人を治むる者は事なり。
能の藝とする所ある者は技なり。
技は事に兼ねられ、
事は義に兼ねられ、
義は徳に兼ねられ、
徳は道に兼ねられ、
道は天に兼ねらる。
【大体の意味内容】
道に基づいて詔(みことのり)のありようを観取すれば、天下に君臨する者の政(まつりごと)に間違いはなくなる。
道に基づいて人間の分別を観取すれば、君子は臣民の幸福に貢献し、臣民は君子の善政を支えるという大義が明白になる。
道に基づいて人々の才能を観取すれば、天下の諸々の官職に適材を適所に配することができる。
道に基づいてありとあらゆるものを観取すれば、それらすべての間には必ず応報の結びつきがあり、孤立した物事などないことがわかる。
それゆえに、天の宇宙原理に通じるものは道である。
天の具体化した大地における生々(せいせい)流転(るてん)の働きが徳である。
多種多様な万物を調和させる行いが、義である。
義をわきまえることで人の上に立ち、人民の幸福を護り治めるものが、政事である。
人民それぞれの才能を、生きてゆくうえで一つの天職として洗練させてゆくものが、技芸である。
人それぞれの技芸は、正しい政事が行われる社会で発揮される。
正しい政事は、万物調和の大義のもとで実現する。
大義は大地の元気・生命力発動の徳を受けて、勢いを増す。
生命力に満ちた徳は宇宙原理に通じた道によって、乱れのない軌道を得る。
宇宙原理の道は、今日の天気、明日の天気に顕(あらわ)れてくる。
【お話】
大きなものから、そのエネルギーの及ぶより小さなものへと次々に焦点を絞り込んでゆき、逆に小さなものから、大きなものへのつながりをたどりなおす。こ゚のお話自体も十分読み応えあるのですが、皮肉なことに、今はウィルスの教訓にも見えてしまいました。
この世で最も小さな生き物の脅威に私たちはさらされています。
でもウィルスたちは、自然界の様々な生き物たちに宿り共存してきただけらしい。
人間が割って入ってきたことで、人間にも宿り大増殖してしまうと、それは彼らにとっても思わぬ不幸になってしまう。すなわち人間の死、です。
宿り主が死んでしまうと、自分たちも死ぬしかない。
人間達が、自分たちの生活圏を広げるためや欲望を満たすために自然破壊を繰り返し、かえって自分たちにとっても生きられない世界にしていっているのと同じではないか。
そう思えてきました。
ウィルスのほうは、ほかの動物とは共存しているから人間が滅んでも仲間は生き残る。
ただし人間にとりついた多くの犠牲の上で。
そのことにウィルスのほうで学習して、人間から離れてくれるのを待つしかないか。予防策を講じ、寝食に配慮して抵抗力・免疫力を強め、時間稼ぎをすることで。
地球や宇宙からすれば私たちもウィルスのようなものでしょう。宿り主を死滅させないように身を処する知恵こそ、長い目で見て最重要なのに違いありません。