火伝う

(荘子 養生主篇第三―9)
澤雉(たくち)は十歩に一啄(いったく)し、
百歩に一飲するも、
樊中(はんちゅう)に畜(やしな)わるるを期(もと)めず。
神は王(さかん)なりと雖(いえど)も善(たのし)まざればなり。

指は薪を為すに窮するも、火、傳(つた)う。
其の盡(つ)くるを知らざるなり。

【大体の意味内容】
沢辺の野生の雉は、十歩あるいてわずかな餌を一口啄(ついば)み、
百歩歩いて露ほどの水を飲む。
そんなつつましい生活だが、籠の中で家畜として養われることを、求めない。
飼われれば餌は十分で身体は安定するであろうが、
生きている実感を得られないからだ。

(生命燃焼の充実は、与えられたものを貪(むさぼ)ったり、安楽なものに浸されたりしていても、発揮されない。)
手を動かして薪を作り、補充することができなくなっても、
火は伝わり播(ひろ)がってゆく。
燎原(りょうげん)の炎は、決して尽きることがない。
(命あるものは、ことさら肥え太らせようとはしなくても、必ず身の周りにあるものを糧(かて)として、生命の火を継いで行く。生命燃焼は、賢しらな理屈によらず、生きる意欲と比例して強く大きく広がる。人々の心意も、時を超え世界を超え、尽きることなく伝わってゆく。)

【お話】
ALS(筋(きん)萎縮性側索(いしゅくせいそくさく)硬化症(こうかしょう)という重度障碍者の船後靖彦さんと、頸椎損傷で手足を動

かせない重度障碍者の木村英子さんが、参議院選挙で、山本太郎代表の政治団体「れいわ新選組」から立候補し、当選されました。

心無い批判をする人もいるようです。自分のことを自分でできない人が多くの人に迷惑をかけることになる。こういう「社会的弱者」の代弁者として健常な人が議員として活動するのだから、「社会的弱者」本人がしゃしゃり出てくるべきではない、という趣旨です。

いろいろな意見はあるでしょうから、それも一つの立場なのでしょう。
これからの展開を通じて、その意見が強まるかもしれないし、認識を改めるようになるかもしれません。

これから議員活動を始めるこのお二人が、どんな「ディープインパクト」を日本の政界、世界の政治に及ぼすか、注目したいと思います。

すでに、国会の議席についてもお二人が着席できるように改修工事が始まり、
介護費用についても、国会議員になったことで国からの援助が打ち切られる中、参議院が費用を負担するという制度変更も行われます。

インパクトははや始まっています。

政治家としての力量は未知数とはいえ、お二人とも重度障碍者でありながら、他の障碍者、患者さんたちへの支援活動を行うプレイヤーです。頭脳(ずのう)明晰(めいせき)な人たちでしょうから、甘く見てかかると後悔することになるでしょう。

船後さんの素晴らしいところは、このような病苦に見舞われた自分の運命を呪うことなく、人生を楽しんでいるところです。

呪うどころか「天の恵」として受け入れ、この状況でもかつてバンド活動していたときの様にギターを演奏したいと、脳波で演奏できる技術開発を進めたりもしているとか。

病苦さえ 運命(さだめ)がくれたげーむだと
思える我は 「幸せの王」       船後靖彦。

老子や荘子の思想にもリンクしています。まさに「百谷(ひゃっこく)の王」(数百以上の谷川が流れ込むことで豊かに湛(たた)えられる大海という王)です。

謙虚に、後方で控えておられるであろうお二人が、ここぞという場面でぶっちぎりの飛翔をするという「ディープインパクト」を、国会にぶちかますかもしれません。