太平、治の至りなり

授業前の素読(荘子四十六 天道篇第十三)

古(いにしえ)の大道に明らかなる者は、
先ず天を明らかにして道徳これに次ぎ、
道徳已(すで)に明らかにして仁義これに次ぎ、
仁義已に明らかにして分守これに次ぎ、
分守已に明らかにして形名これに次ぎ、
形名已に明らかにして因任これに次ぎ、
因任已に明らかにして原省これに次ぎ、
原省已に明らかにして是非これに次ぎ、
是非已に明らかにして賞罰これに次ぐ。

此れを以て物を治め、
身を脩(おさ)め、
知謀は用いず、
必ず其の天に帰す。

此れをこれ太平と謂う。

治の至りなり。

【大体の意味内容】
昔の、大いなる道の原理を悟っていた者は、
まず天の自然法則を明らかにしてから、その次に道とその徳(はたらき)に及んだ。
道徳を明らかにしてから、次に仁愛と正義に及んだ。
仁義を明らかにしてから、それぞれの守備範囲となる、人生における役割を分担した。
そうした分守を明らかにしてから、次に天職ともいうべき仕事の形と、その名づけに及んだ。
形名を明らかにしてから、次にそれぞれの個性や特質・才能に因(ちな)んだ任務(ミッション)に取り掛かった。
このような因任を明らかにしてから、次に人間の生命活動の根原を深く省察した。
この原省を明らかにしてから、次に善しとすべきもの、悪(あ)しとすべきものという是と非との判断に及んだ。
是非を明らかにしてから、次に賞と罰との裁定に及んだ。

このようにして物事を治め、
わが身を修め、
賢しらな知謀をはたらかせることなく、
天の自然原理に回帰して生きる。

こうした世界をこそ太平というのであって、

平和の極致なのである。

【お話】
善し悪しの判断や信賞必罰の実践などは最後でよい。世界の原理〔道〕とその働き〔徳〕がどのようになっているのかを見極めて、その影響下における仁愛 や正義をどう施すべきかを優先させなければならない。

今のご時世の影響かもしれませんがその様に読めました。

為政者の政策が長い目で見て効果的だったかどうか、善し悪しは後で構わない。
現在はウィルスと共存しなければならない世界であり、経済活動全般に異常事態が発生するという、「天の道徳」に見舞われています。
大変酷(こく)な「道徳」です。

そのもとでの仁愛や正義、すなわち国民の命・生活(生命活動)を護る、ということのためには、
最も効果的なのは400兆円でも500兆円あるいはそれ以上でもお札を刷って、国民に直接届けること。

「政府の借金が増えすぎて財政破綻するかも」とか
「ハイパーインフレが起きかねない」といった確定的でない心配は後回しにすべき。

まずは国民が生き延びることで、それぞれの役割を果たすことができますし、仕事の遂行ができる。

今回の本文で言えば「分守」「形名」を守り切ることで、今まで惰性(だせい)で生きてきた日常が、極めて重い意味を持っていたことに誰もが気づき、それ ぞれの個性や才能に応じた「天命」を知り、自分が果たしてゆくべきことを改めて認識できましょう。

この世で自分が生きてゆくことの意義を深く知り、生きなおし始める。

「新しい生活様式」とは、そうした意識変革(トランスフォーメーション)にこそ基礎づけられるべきものではなかったか。

まずはそのように前に進むべき。
善かったか悪かったかは後で評価すればいい。

いずれにせよそうして人民が前を向いて生きられる世界こそが、「太平」の世である。

至高の治世である。

どう評価されるかを懼(おそ)れて、先にすべきことをしないのは為政者として失格だ!

そんな声が聞こえてくる文章でした。