天の君子は人の小人なりと

(授業前の素読 荘子二十八 大宗師篇第六)
孔子(こうし)曰(いわ)く、魚は水に相(あ)い造(いた)り、人は道に相(あ)い造(いた)る。水に相(あ)い造(いた)る者は、池を穿ちて養い給り、道に相(あ)い造(いた)る者は、事とするなくして生足る。故に曰く、魚は江湖に相い忘れ、人は道術に相い忘ると。子貢曰く、敢えて畸人を問うと。曰く、畸人なる者は、人に畸にして天に侔(ひと)し。故に曰く、天の小人は人の君子、天の君子は人の小人なりと。

【大体の意味内容】
孔子は言った、「魚は、水と互いに求めあい一体となる。人は道と互いに求めあい、一体となるものだ。水と求めあう者は、池を掘ってそこに同居させれば、互いに養いあって事足りる。道と互いに求めあう者は、ことさらな行いを為さずしておれば生きるに足るのである。だから、こういわれている。『魚は大河や湖水のような、豊かに満ち足りた世界では、互いに忘れあっている。人は道の働きとひとつになれている時は、互いの存在を忘れている』と。孟子反や子琴張のような人たちはすでに道と一体になっているわけだから、何事にもとらわれない生き方をしていると認めればよい」と。子貢は言った、「お言葉ですが、彼らは単なる奇人ではないですか」と。孔子は答えた、「奇人と言われる者は、人間にとっては変わり者かもしれないが、実は天に等しい道理に生きる者だ。だから『天界における小人物が、人間界では君子となり、天界の君子は、人間界では小人物として軽蔑される』といわれているのだよ」。

【お話】
映画『スターウォーズ』の最新版(完結編)が公開されています(私はまだ見ていませんが)。第一作目で、主人公のルーク・スカイウォーカーが、「ジェダイの戦士」として修行しようとして、とある惑星に行った時に、みすぼらしい小人の老人に出会い、バカにする場面があります。ところがこの老人こそが、ルークが探していた最高の「ジェダイ」マスター・ヨーダであったという展開になります。こ゚の映画に限らず、人々にバカにされ軽んぜられる存在が、実は最高の人格者であったり実力者であったりするような描かれ方はとても多いですね。
人間界における一見醜悪な存在が、実は最も聖なる存在とする心意伝承が、昔からあるのでしょう。また、このヨーダのモデルが老子であり、また剣豪宮本武蔵の心の師である沢庵和尚でもあるという説があって、印象深いです。