(『老子道徳経』上編道経18)
大道(たいどう)廃(すた)れて、仁義有り。
慧(けい)智(ち)出でて、大偽(たいぎ)有り。
六親(りくしん)和せずして、孝慈(こうじ)有り。
国家昏乱(こんらん)して、忠臣有り。
【大体の意味内容】
宇宙遊働世界の根源的意思にして、人倫の遵(したが)うべき「大道」が廃(すた)れてしまったところで、仁愛や正義を重視することが始まった。
さかしらな知恵知識を振り回す者が出始めてから、大いなる偽りに人々を陥れることが始まった。
父・母・兄・弟・妻・子の六親が不和となる事態が珍しくなくなってしまったところで、やたらと親への孝行とか、子への慈愛といった徳目を振りかざす教育が、流行(はや)りだした。
そして国家の勢いが衰え、乱れ傾いてきたときに、忠臣が現れてくるのである。
【お話】
たまたまユーチューブで「NHKスペシャル 原爆投下。知られざる作戦を追う」を観ました。原爆投下は初めから決定事項であったらしいことは、聞いたり読んだりしたことはありましたが、その経緯(けいい)が極めて詳細に、録音の音源や公式の記録文書などで解き明かされていました。すごい番組でした。
原爆計画の責任者グローブスは、22億ドルもの予算をかけて開発した原爆の、費用対(コストパフォー)効果(マンス)を証明しなければ、のちに責任を追及されるという苦境に追い込まれてもいたそうです。なので直径5キロメートルで人口が密集した、無傷の都市で、周囲が山に囲まれて爆風の「収束効果」が得られてその破壊力や効果が観測しやすいところに落とす、という計画を立てていました。京都をはじめとする日本の17か所をターゲットにしました。
ルーズベルト大統領の急死で急遽(きゅうきょ)大統領になったトルーマンは、原爆計画はおろかその存在すら知らなかったそうで、とりあえず「一般市民、特に女性や子供が多いところは避けろ」という注文を出すだけで、積極的に原爆計画を監視しようとはしなかった。
なので、古都で有名な京都への投下は反対したものの、「軍事施設の中心地である広島」については、一般市民の居住状況をさして調べもせず、黙認したようです。
原爆投下された後の、破壊しつくされた広島の航空写真を見たトルーマンは、「このような大量殺戮(さつりく)の責任は大統領である自分にある」とつぶやいたそうです。しかし茫然(ぼうぜん)自失(じしつ)してすぐに行動には移せず、軍から出された原爆投下指令を現場は継続し、長崎にも落とします。止める命令を出せるのは大統領だけだと知ってあわてて動いたトルーマンは、その翌日に「原爆投下中止」の大統領令を出しました。
これで、3発目以降は中止になったそうです。
大きな責任を感じたトルーマンは、「多くのアメリカ軍兵士の命を救うために原爆を投下し、戦争終結を早めた」という理屈を採用しました。この物語が現在まで生き続け、多くのアメリカ人にとっては「原爆は戦争終結を早めるためやむを得ず投下した。それによって、アメリカ人も、日本人の犠牲者も増やさずに済んだ」という輝かしい記憶となっているようです。
トルーマンの決断がなければ、17~19発落とされていたのです。しかも、戦争が終わってしまう前に実行しなければならなかったので、グローブスは大変焦(あせ)っていたのです。
「世界大戦」という、地球規模で「大道」が廃(すた)れてしまったときに起きた大きな偽(いつわ)り。その後、小さからぬ良識も発達してきていますが、地球を覆(おお)う「大偽(たいぎ)」の暗雲は、今現在も広がり続けています。私たちは、大きく騙(だま)され続けていることを、自覚していなければならないのです。