君子は事え易くして、説ばしめ難し

論語30 子路第十三 二五

子曰く、
君子は事(つか)え易(やす)くして、説(よろこ)ばしめ難(がた)し。之(これ)を説ばしむるに道を以(もっ)てせざれば、説ばざるなり。其(そ)の人を使うに及びてや、之を器にす。

小人は事え難くして、説ばしめやすし。之を説ばしむるに道を以てせずと雖(いえど)も、説ぶなり。其の人を使うに及びてや、備(そな)わらんことを求む。

【大体の意味内容】
先生はおっしゃった。「立派なリーダーのもとで働くのは容易いが、そのリーダーを喜ばせるのは難しい。人として

の正しい道徳に基づいて行わなければ、喜んでもらえないからだ。お世辞を言ったり、賄賂を贈ったりしても無駄である。
私たちを働かせるに当たっては、それぞれの才能や能力に応じた仕事を分担させてくれる。

くだらないリーダーのもとで働くのは困難だが、彼を喜ばせるのは簡単だ。道徳的である必要はなく、お世辞を言ったり、賄賂を贈ったりすればかんたんに喜んでくれる。そのくせ私たちを働かせるときには、一人で何役もこなせる能力を備えることを、平然と要求してくる。」

【お話】
大学で卒業論文執筆の準備を進めていたときのことでした。
私がいた研究室の指導教授の誕生日が十月にあり、仲間の学生たちと恩師の誕生パーティーを企画しました。

誕生日の当日、私たちは恩師の研究室を飾り付け、ケーキやそのほかの飲食物を机に並べて先生を待ち構えました。そうして、先生が入ってくるやいなや、クラッカーを鳴らし、「ハッピーバースデイ・トゥー・ユー」を歌い始めました。
このあとプレゼントを渡す予定でしたが、歌い始めた途端(とたん)、先生は烈火(れっか)のごとく怒りだしました。

「いったいなにをやってるんだ!
論文提出は十二月十五日だろう!
まだ誰も全然書けていないのにこんなことしている場合か!
くだらんことするな!
やるべきことをやれ!」

バーンと音を立てて戸を閉め、出ていってしまいました。
残された私たちはシュンとなって後片付けをしながらも、なんだか不思議に感動していました。

まだこんな侍(さむらい)がいるんだ。
私たちの先生が、まさにそんな人なのだ、と。