(宮本武蔵『五輪書』水の巻 兵法の目付けと云事)
目の付やうは、大キに広く付る目也。
観(かん)見(けん)二ツの事、観の目つよく、見の目よはく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専(せん)也。
敵の太刀をしり、聊(いささかも)敵の太刀を見ずと云(いう)事。目の玉うごかずして、両わきを見る事肝要(かんよう)也。常住(じょうじゅう)此(この)目付になりて、何事にも目付のかわらざる所、よくよく吟味あるべきもの也。
【大体の意味内容】。
戦いの場での目のくばりは、視界を大きく広げようとすること。
「みる」ということには『観』と『見』の二種類ある。
『観』は物事の本質を深く見極めることで、これを強くし、
『見』は表面のあれこれの動きを見ることだがこれは弱くせよ。
遠く離れたところの様子を、間近のことの様に明晰に『観』察せよ。
逆に間近の動きはかえって遠くのものを『見』るように、その大体の様子だけ知ればいい。
敵の太刀が、どのような筋道で動くかを知り、予測して、
今現在の動きを見ようなどとはいささかも思ってはならない(予測できなければ先に切られてしまうからだ)。
目の玉を動かさないままにして、両わきを見る事が大切である。(きょろきょろしなくても感覚を研ぎ澄ませれば、かなり広範囲のものが見えるし、背後の物ごとについても気配を察知することができる)。
常日頃から、こうした座禅をするときの様なリラックスした目付きで、どのような場合でもそれが保たれるように、よくよく吟味修錬すべきである。
【お話】
現代の格闘技や各種スポーツにも完全にあてはまる極意ですし、テストを受けるときの視界の据え方としても、大変有意義です。
まずは全体を見渡して、どこから手を付けるべきか瞬時に判断し、設問のポイントを適格に見抜くこと。
目先の条件だけに惑わされず、出題者の意図を、遠くを近いものと同じように明確に見通すこと。
宇宙から地球を見下ろすように、様々な角度から考えてみること。
案外単純かもしれないと、心にゆとりを持たせること。
パニックになって実力を発揮できずに終わることのないよう、視野を広げて冷静になりましょう。