フジ子・ヘミングを偲んで

 かけていたメガネが曇りだした。信じられない。こんなことってあるのか!!
 ピアニストフジ子・ヘミングの「ラ・カンパネラ」を間近で聴いたときのことです。物凄い音、すさまじい感動で全身が熱くなるのは感じた。前の席の女性たちがハンカチに顔をうずめて泣き始めたそのあとで、メガネが曇って何も見えなくなりました。自分の顔からの発汗で曇ったわけです。小説や映画、ドラマ、スポーツ観戦等々、私は単純に感動しやすい方ですが、メガネが曇ったなんてことは後にも先にもこの時ただ一度きりです。それほどフジ子のピアノには魂を揺さぶられました。まさにかりの演奏としか言いようがありません。
 4月21日に92歳で亡くなられました。もともと天才少女として注目されていたものの、日本人ピアニストの母と、スウェーデン人建築家の父の間にベルリンで生まれ、日本で暮らし始めてからも国籍がなかったので海外留学はなかなかできず、28歳でようやく「難民」としてドイツに渡った。暖房無しの屋根裏部屋住まいという極貧から聴力を失う病に見舞われ、メジャーデビューのチャンスを得ながら本番で失敗、忘れ去られました。67歳の時に、戻ってきていた日本でNHKのドキュメンタリー番組に取り上げられ、私も見ましたがその演奏の凄みに圧倒され日本中でフジ子フィーバーが起きたのです。CDを出せば200万枚売れたという、クラシック音楽ではありえない大ヒット。コンサートチケットはそのつど発売開始1時間以内に完売。挙句に日本武道館での(聴衆)1万人コンサートを実施。本当にピアノ1台で1万人を圧倒するのだから恐ろしい。連れて行った小学生の息子も全身ガタガタ震わせながら聴き入っていました。
 東日本大震災復興支援コンサートの寄付金は主に動物愛護のために回すなど、支援関係の業務も独自の方針で進めていました。自分の利益に関心がないから日本の強欲資本主義がぶら下げるニンジンには目もくれずと世界を回り、不幸な人々や動物たちのために鎮魂の演奏活動を続けていました。彼女の死を悼む人々は国内にも世界中にもたくさんいますが、スポンサーがいないので追悼番組は制作されず、報道でも声を上げるのは芸能人ばかり。日本の音楽界、ピアノ界から完全に黙殺されているのも、何かフジ子の生き方に徹底と統一性があるのを偲ばせます。
 最晩年の演奏は、テクニックはともかく音は際限なく深化して全く異次元の領域。私も含め聴く者達はスタンディングオベーションを惜しみません。神の音よ永遠に響け!

この拙文を校舎だよりに載せて発行した翌日、ネットニュースで、NHKでも追悼番組が放送されることが報じられていました。
5月26日(日)午後9時NHK総合
「魂のピアニスト、逝く~フジコ・ヘミングその壮絶な人生~」
NHKスペシャルでフジコ・ヘミングさん追悼 5年間密着取材をもとに壮絶な人生に迫る | ORICON NEWS
よろしければご覧ください。可能ならばよいオーディオ機器・スピーカーにつないで。
人生変わると思います。