NHKのサンデースポーツを見ていると、様々なアスリートたちの「芸談」が聞けて楽しい。
自分の意思を超越したような集中力・身体能力が発揮されることを「ゾーンに入る」というらしい。
北方謙三の『水滸伝』では「死域に入る」という、そのことだろう。
私も中学生時代に経験したことがある。
駅伝選手候補として走り込みをしていた時のこと。一時間走というトレーニングで、45分くらい経過したころだったかと思う。
足が勝手に動く。勝手にハイスピードになっていく。心臓も肺も苦しくない。
ほかのメンバーとの差が広がって、「無理するな」「つぶれるぞ」と声をかけられたが、止まらない。
セーブさせようとしていた顧問の先生も、何も言わなくなった。
私もこの状態、どこまで続くのか試してみたくなって、抵抗せずスピードアップ。
ほとんど全力疾走に近い走り方。
題名は忘れたが、魔法の靴を履いて激しく踊り狂う少女の物語を思い出していた。
そのままでは少女が死んでしまうということで、ナタか何かで両足を切断される結末を想起していた。
「俺も死ぬのかな」
と思いつつも、足が自分のものではなくなっていたので
天翔(あまが)けている感覚が楽しくて楽しくて、そのまま最後まで駆け抜けた。
60分経ったところで、私が部長だったので「終了」の号令をかけた。
そこで夢から覚めたように、身体も止まった。
必ず、ということではないが、
苦しいことに耐えるよりも、自ら進んで苦しみぬこうと決めてアクセルを踏んだ方が、
そのような状態に入りやすいと思う。
確かに下手をするとぶっ壊れたり、致命的なことにもなるかもしれないが、
きっと、心身のほうが、生存本能を働かせるだろう。