「まぶるる」という事(宮本武蔵『五輪書』より)

まぶるると云(いう)は、敵(てき)我(われ)手近くなつて、互いに強くはりあひて、はかゆかざると見れば、其儘(そのまま)敵とひとつにまぶれあひて、
まぶれあひたる其うちに利を以(もっ)て勝事肝要なり。
互にわけなくなるやうにして、其うちの徳を得、其内の勝をしりて、つよく勝事専也。
よくよく吟味(ぎんみ)あるべし。

【大体の意味内容】
「まぶれる」というのは、
敵とわれとが間近になり、お互いに強く張りあって、決着がつかなくなったと判断したときには、
そのまま敵とひとつになって互いにからまりあい、
そうしたなかで思いがけず発動(はつどう)した利(いきおい)に乗(じょう)じて勝つことが重要である。

互いに分離できないような状況の中で、神憑(かみがか)り的(てき)な徳(はたらき)を利用しようとすること。
「勝負がつかない、引き分けにしよう」と相手が考えたら、その瞬間こそが「勝時(かちどき)」である。
ホッとするときにこそ、最後の全力を振り絞って打ち勝つことに専念せよ。
よくよく吟味修錬すべきである。

【お話】
乱戦になったときは、それをへたに整理しようとか、体制を立て直そうとかせず、そのままぐちゃぐちゃになってしまえ、ということです。

疲れたら、より一層疲れきってしまおうとすること。

苦しければ、むしろ徹底的に苦しみぬこうとすること。

乱れれば、きちがいじみるほど乱れてしまうこと。

いわゆる「スマート」な対応とはほど遠い、真逆の生命燃焼を命ずるものです。

救いようのない狂気に身を任せつつ、頭の芯では冷たい理性を保って、狂っている自分を見つめること。

すべては、勝つため。

誰か他人に勝つというよりも、弱気の蛆(うじ)がわいて、あきらめてしまう自分に勝つためです。

力は、温存しようなどと考えず、出しきってしまう覚悟で力み通せば、

限界を超えて、かえって無駄な力が抜けて、自分にとって最も効率的で合理的な働きを発揮するようになることもあります。

まるで神憑りしたような感覚で、一流のアスリートたちが、「ゾーンに入る」と言っている、アレです。

とにかく不器用でも何でもいいから、頑張れるときに頑張り通してみてください。

きっと一度は、「ゾーンに入る」体感を得られるでしょう。