授業前の素読(荘子四十八 天道篇第十三)
古の至人は、
道を仁に仮り、宿を義に託し、以て逍遥の虚に遊び、
苟簡(こうかん)の田に食らい、不貸の圃(ほ)に立つ。
逍遥すれば無為なり、苟簡なれば養い易きなり。
是れを采真(さいしん)の遊と謂えり。
富を以て是と為す者は、禄を譲ること能わず。
顕を以て是と為す者は、名を譲ること能わず。
権に親しむ者は、人に柄(へい)を与うること能わず。
これを操(と)れば則ち慄え、
これを舎(す)つれば則ち悲しむ。
而して一(いつ)も鑒(かんが)みる所なき者は、是れ天の戮民(りくみん)なり。
怨恩取与、諫教生殺、八者は正の器なり。
唯だ大変に循(したが)いて湮(ふさ)ぐ所なき者のみ、能くこれを用うと為す。
故に曰く、正とは正すなりと。
其の心以て然らずと為す者は、天門開かざらんと。
【大体の意味内容】
昔の至高なる人は、道行きの杖として「仁」を扱い、一夜の宿として「義」を守っているだけであった。
実際は「仁・義」の観念にとらわれず、虚空に遊ぶごとく自由に逍遥(しょうよう)し、粗餐(そさん)を食らっていた。
気ままに歩き回っておれば、殊更な作為のない自然な生き様となり、質素であれば我が身を養いやすい。
これを「采真の遊」すなわち―真理を捉えた者の遊び―と呼んだ。
富をよしとする者は、自分の財を人に譲ることができない。
栄達をよしとする者は、名声を人に譲ることができない。
権益に捉われる者は、人にその利権の一部なりとも与えることができない。
それらを奪われまいとしてびくびく慄え、失ったときは悲嘆にくれる。
こうして全く己の無様さを省みることのない者は、天の刑罰を受け醜態をさらしている人間である。
怨むこと、恩送りすること、税を取ったり福祉を与えたり、諫(いまし)めたり教えたり、生かすこともあれば殺すこともあるというこの八つのことは、
政治のための手段である。
ただ偉大な道の徳(はたらき)に順応して何の滞りもない者だけが、その八つのことをうまく活用できるのだ。
だから、『政治とは、自分を正すことだ』と言われている。
心からこのことに承服できないような者には、天門、すなわち偉大な道への入り口が開かれることはないだろう。
【お話】
「東京都知事選」がスタートしました。七月五日(日)投票、そして開票です。
埼玉県民は投票できませんが、無関係な選挙ではありません。
東京都は埼玉県に隣接した地方公共団体であり、日本で最も大きな人口と(中小規模の国家予算に匹敵する)財政力を持った存在です。
地方自治全体のあり方を左右し、日本政府への影響力も行使できる強力な自治体です。
皆さんも十八歳になったら参政権を持ちますから、その予行演習として、自分が東京都民なら、どの候補者に投票するか、調べて、決めてみましょう。
ひとまず手っ取り早いのは、YouTubeで「東京都知事選」と検索して、出てきた動画を眺めてみる。
ちょっと関心持てそうな政治家がいたら、その人の名前で検索して、出てきた動画を見てみる。
そんな感じでいいです。
自分にとって都合よさそう、自分にとって感動できそう、そんな主張をしている政治家に「投票する」。
そういうことから始めてみてください。
その政治家が落選したら、悔しがればいい。
その政治家が当選したら、その人がその後、本当に期待した通りの政治を実践するか、ウォッチングする。
そうして次の選挙の時の判断材料として生かす。
そうやって少しずつ政治に参加して、人を見抜く力を養ってください。
日本の選挙の投票率がどれほどか知ってますか?
せいぜい40%なのです。
日本の有権者の実に60%ほどが、参政権を放棄しています。
これは、「どんな人間がどんな政治を行ってもかまわない」、と承認してしまっているということです。
ありえません。
国民をなめた政治家によって殺されても、「自分が悪い、自分の能力不足」と信じ込まされて、座して死を待っているということも起こり得ます。
自分の人生の顛末を他人のせいにすることは、確かによくはありません。
ですが政治に関しては話は別です。
もっと怒るべきです。
自分がクラッシュしそうなことについて怒ることは、必ずしも自分のためだけではありません、
家族のため、友達のため、大事な人のため、次の新しい生命たちのためです。
物知り顔で「自分の都合ばかりを政治家に押し付けるな」とうそぶく知的エリートたち、専門家たちに屈する必要は、全然ない。
「私が生きにくいことは我慢ならん!」と、声を大にしてぶつけるべきです。
聞き分けよくならず、したり顔の連中を容赦なく突き上げるべきです。
権力者は、おとなしくしていれば際限なく付け上がります。
どこまでも国民をなめてかかり、バカにして、犠牲を強いてきます。
デンマークでは幼稚園~大学まで学費は無料で、しかも大学生には国から月7万円のお小遣いが出るそうです。
この制度を変更させないためにも、若者たちはこぞって選挙で投票するそうです。
若い人たちが多く投票すれば、政治そのものが若者向けに変わってくるということです。