天と和する者を天楽と謂う

授業前の素読

(荘子四十四 天道篇第十三)

夫れ天地の徳に明白なる者は、此れをこれ大本太宗と謂う。
天と和する者なり。

天下を均調する所以は、人と和する者なり。

人と和する者はこれを人楽と謂い、
天と和する者はこれを天楽と謂う。

万物を成せども義と為さず、
沢は万世に及ぶも仁と為さず。
上古に長ぜるも寿と為さず、
天地を覆載し衆形を刻彫するも巧と為さずと。

此れをこれ天楽と謂う。

【大体の意味内容】
そもそも天地自然の徳、大いなる流動循環を為しながら鏡の湖面の如き静けさを湛えるはたらきに達した者は、
宇宙の大本にして太宗すなち絶対の核心である。
天という、森羅万象の多様性を生かしたまま、調和するものである。

天下の乱れを均え、武力によらず調節してゆくための手立ては、
多種多様な人々の、その個性を生かしたまま調和させることである。

(様々な音の色を殺さずに調和させることを音楽というが、)多士済々の人々が調和することは、人楽(じんがく)と言えよう。
天に無限に存在する星々、その中のありとあらゆるモノや生命や霊魂の調和を、天楽(てんがく)と言う。

天は、万物を生成させるが、それを以て正義を成し遂げたと誇るわけではない。
世を潤す恵沢は千代万代に及ぼうとも、殊更、仁徳を施したとひけらかしはしない。
遥かな太古から存在していても、長寿であると主張もしない。
天地全体を覆い尽くし、その間の生きとし生けるものことごとくを造形しても、巧匠としての名誉を求めない。

このように、あらゆる作為や欲望を排し、宇宙のすべてが調和して奏でるものを、
宇宙交響楽(コスモス・シンフォニー)、すなわち
天楽(てんがく)という。

【お話】

宇宙の波動を思わせるような荘厳な曲は色々とありますが、ここでは宮沢賢治作詞作曲の、『星めぐりの歌』に注目します。

星めぐりの歌    宮澤賢治作詞作曲

あかいめだまの さそり
 ひろげた鷲(わし)の  つばさ
 あを(青)いめだまの 小いぬ、
ひかりのへびの とぐろ。

オリオンは高く うたひ
 つゆ(露)としも(霜)とを おとす、
アンドロメダの くもは
 さかなのくちの かたち。

 大ぐまのあしを きたに
五つの(伸)ばした  ところ。
 小熊のひたいの うへ(上)は
 そらのめぐりの めあて((北極星))。

夏の星座。さそり座。赤い目玉はアンタレス。わし座のつばさは、夏の大三角。
冬の星座。こいぬ座。青い目玉はプロキオン。オリオンと、おおいぬこいぬで冬の大三角。
へび座。夏。
オリオン座。冬。
秋の星座。アンドロメダ座大銀河。
春の星座。おおぐま座、こぐま座。空のめぐりの目当てとなる中心は、北極星(ポラリス)。

YouTubeで「星めぐりの歌」と検索すればいろんな歌い手のバージョンが出てきますので是非聞いてみてください。
私としては田中裕子のものがおススメ。

春の星座から順番に巡るという流れにはせず、夏と冬、秋と春という対極にある星座を対句の様に組み合わせますが、
必ずしもバランスよく詩句の形式を整えようともせず、宇宙(そら)に星座(コンステレーション)された生命たちを淡々と描く。

対極の季節が空に刻んだ十字文が、ぐるぐる巡って中心点に北極星をイメージさせる。
実際の位置関係にとらわれずそんな宇宙イメージを朗らかに歌った、
ある意味「お経」であり、聖歌なのだと思います。