犬たちを送る日ーこの命、灰になるために生まれてきたんじゃない

『犬たちを送る日-この命、灰になるために生まれてきたんじゃない』今西乃子・著 金の星社

 小学生が読めるようにルビが多く付されていますが、内容に手抜きは一切ありません。

愛媛県動物愛護センターに著者が取材したルポです。ここに勤める職員たちは本当に動物への愛情に満ちた人たちですが、実際の業務の大半は、ここに持ち込まれた犬や猫の殺処分。その数は年間に約四千匹!
一部は「譲渡会」に出されて、運がよければ引き取られて命が助かりますが、ほとんどは殺される運命にあります。

いわゆる「保健所」と同じで、狂犬病予防のために野良犬を捕獲しているのだろうと思われることもあるようですが、今の時代、野良犬自体は激減しているそうです。
確かに私自身、引っ越しや職場の転勤でいろんな地域に関わってきましたが、野良猫は見ても「野良犬」はもう何年も見たことがありません。
野良猫は駆除する法律がないそうですが、「野良犬」という存在はほぼ絶滅したに等しい。
にもかかわらず、犬が4千匹、猫も4千匹毎年持ち込まれるという。しかも子犬や子猫もかなり混ざっているとか。明らかに血統書付きの、高額な値段がついていたと思しきものまで少なくないそうです。
つまり、飼い主がいたものが、こんなにも多く「捨てられて」いるということなのです。

飼い主が高齢のため(もしくは死亡等のため)、という場合や、
経済的に飼い切れなくなったため(車1台分の費用は優にかかるそうです)、
散歩がめんどくさい、
やたらと吠えてうるさい、
あきた、
バカ・アホだから、

そんな理由だとか。

このセンターではどんな施設でどのような行程で殺処分が行われるのか、詳細に説明がなされます。
その一つ一つの過程で犬たちがどんな様子でいるか、最後のガス室に閉じ込められて異変を察した彼らの慌てまどう様子、二酸化炭素ガスを注入され苦しみ悶え息絶える様子、死体が焼却されるときの、皮や肉が焼けるときのダンスの様子…

職員たちは、一度は飼われたが最終的には必要とされなくなり、生ゴミの様に捨てられる彼らを、「いのちの玉」として最期の時まで精一杯世話をし、せめて自分たちが思いを込めて看取ることを使命としています。

そして、「捨てられた命を一頭でも救う」から、「捨てられる命を一頭でも減らす」社会を作ろうと、市民へ向けての啓発活動を開始します。

動物愛護のためのイベントを積極的に行い、お説教をするのではなく、少しでもここに集められる犬や猫に関心を持ってもらおう、そのきっかけができれば、という緩やかな働きかけを始めます。
数々の修羅場を看取ってきた人たちだから、笑顔の底に湛えた悲しみの説得力があるのでしょう。
次第にこのセンターに足を運ぶ人々が増えてきたそうです。

飼っている犬のしつけについて訪れた人と、センターの職員とのやり取りが印象的でした。

「うちの犬はよくほえるけん、ここで直るんでしょうか?」
「しつけ教室とは、犬のしつけではなく、実は飼い主さんのしつけのことなんですよ」
「飼い主のしつけ?」
「まず犬という生き物をよく理解してもらい、犬を幸せにできる飼い主さんになってもらうための教室なんです」
そしてこのあと、様々な不都合が、実は犬たちのせいというよりも、人間の側の不心得に起因していることをとてもわかりやすく具体的に例も挙げながらテンポよく説明してゆきます。

犬や猫を引き取ってくれる人たちには(子どもたちにも)、殺処分される犬や猫たちの様子をビデオで見てもらい、
生き物を飼うということの責任を自覚してもらう。
こうして少しずつ、このセンターに持ち込まれる犬や猫の数、特に子犬や子猫の数が減ってきたそうです。不妊手術を施す飼い主が増えてきたということです。

今も毎週火曜日には数十頭の犬や猫を殺処分する日々の職員たちが、
決して自分の仕事を呪わず、身勝手な人間へ憎しみを向けず、動物たちへの愛を絶やさず、
ポジティブに自分たちの目標へ向かって生きているのに心を打たれました。

「愛媛県を、日本一動物たちにとって幸せな県にする!」
「動物が日本一幸せなら、県民も日本一幸せになる!」