宮本武蔵 『五輪書』風の巻 他の兵法にはやきを用る云事 より
はやきと云(いう)所、実(まこと)の道にあらず。
拍子の間にあはざるによつて、はやきおそきと云也。
上手のする事は緩々(ゆるゆる)と見へて、間のぬけざる所也。
はやくいそぐ心わろし。
枕をおさゆると云心にては、少もおそき事はなき事也。
又人のむざとはやき事などには、そむくといひて、静になり、人につかざる所肝要也。
【大体(だいたい)の意味(いみ)内容(ないよう)】
スピードを上げようとするのは、ほんとうの方法ではない。
敵の身体がノッている拍子にあわないから、速く見えるだけだ。
相手のリズムをつかめば、たやすく対処できる。
上手な人のすることは、いかにも悠々としていて、しかも「間ぬけ」な鈍感さがない。
だから本質的な速さがあって、躱(かわ)し切れないのである。
それをわきまえず、筋肉の力でスピードを上げよう、急ごうとする心は悪いものなのだ。
「枕をおさえる」という技は、ゆったり行うが少しも遅いということはない。
ぼんやり相手の気を眺めていると、彼がこちらを攻撃しようとした瞬間に全身から出ている気の揺らぎが止まるから、それを感じたらガードをあげるなどして防御する。
そのあと相手が攻撃を仕掛けてくるという流れになる。
なので、相手は懸命にハイスピードで打とうとするが、打とうとする「う」の字のところをおさえるという格好になる。
これが「枕(頭)をおさえる」である。
相手がむやみに急いでいる時は、「背く」と言って、わざと静かになり、
相手のペースについていってやらないことが肝要である。
【お話】
合気道のビデオで実際に「枕をおさえる」という技を見ましたが、確かに先生がすっと防御の手さばきをし始めた次に、弟子がパンチする動作に入るという、ちょっと間抜けな場面に見えました。
こうしたことも、すぐにできるわけではないから、心静かに相手の気を読むトレーニングを繰り返す必要があると、武蔵は言います。
受験の場合は、直接対戦する相手がいるわけではありませんが、本番の前に会場模試を何度も受けるなどして実戦の感覚を研き、当日も早めに行動し始めることで、一つ一つの動作はゆったりと冷静に行うことが可能になります。
文字を書くにも、せかせか書いて判読不能になったり書き損じたりするよりも、
じっくり丁寧に書いていた方が結果的に早く書き終わることが多いのです。