彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず

(授業前の素読 孫子1 彼を知り己を知れば百戦殆うからず)

勝を知るに五あり。
以て戦うべきと、以て戦うべからざるとを知る者は勝つ。
衆寡の用を知る者は勝つ。
上下の欲を同じくする者は勝つ。
虞を以て不虞を待つ者は勝つ。
将、能にして君の御せざる者は勝つ。

故に曰く、
彼を知り、己を知れば、百戦して殆うからず。
彼を知らずして己を知れば、一勝一負す。
彼を知らず己を知らざれば、戦うごとに必ず殆うし。

【大体の意味内容】勝つために知るべき条件が五つある。
一、戦ってもよいか、それとも戦うべきではないかを適切に知る者は勝つ。
二、兵力が多い場合の用兵と、少ない場合の用兵との違いを知り、使い分けられる者は勝つ。
三、リーダーと部下たちが同じものを求めて、一致団結している集団は勝つ。
四、自分たちは万全の準備をしつつ、(すぐに攻め込むのではなく)敵に不備が生じるのを待って有利に戦うものは勝つ。
五、将軍が有能で、君主は彼を信頼し、軍事に干渉しない国は勝つ。
したがって、次のように結論付けて言うことができる。敵の長所短所を知り、同時に自己分析も正確に行って自分の長所短所も知るならば、百戦連勝、負けることはないだろう。己を知ってはいるが、敵についての情報不足でよく知らないならば、勝ったり負けたりすっるだろう。敵を知らず、己をも知らないならば、それはもう論外で、戦うごとに危険にさらされ続けることになるだろう。

【お話】
世界でもっとも著名な兵法書、「孫子(そんし)」を読んでみます。
今から二千四百年ほど前、呉の国の将軍孫武が原形を書き、子孫の孫臏(そんぴん)が体系づけたと言われる書物です。
日本では戦国武将武田信玄の旗印「風林火山」が『孫子』軍争篇から取られたことが有名です。
徳川家康もこの書を重視し、印刷刊行しています。
フランスの英雄ナポレオンが『孫子』を座右の書としていたことは有名。
第一次世界大戦を引き起こしたドイツ皇帝ウィルヘルム二世は、敗戦後に『孫子』を読み、「二十年前に読んでいたら…」と悔しがったそうです。

ここでは人間学の書として読んでみたいと思います。「戦略・戦術」的な話は、志望校合格への戦略・戦術として置き換えて読んでみると、案外面白いのではないかと思います。

この章については
「志望校合格のための五つの戦略」と読んでみます。
一、受験するべきか、避けるべきかを知る。
二、科目別の得点力に応じて、合格点到達のための予算を立てる。
三、受験生本人と、サポートしてくれる人(家族、先生、先輩友人など)が同じ目標へ向けて当事者意識を持って取り組む。
四、学習面だけでなく、心と体のケアも万全に。しかし当日に悪天候や感染拡大などの不測の事態も起こりうるので、覚悟をしておく(パニックにならない)。
五、受験生本人が前を向いて本番に臨む。家族などサポーターたちは、受験生を信じて、心身のコンディションのケアだけを行う。余計な口出しはしない。

 こんな感じはいかがでしょう。もちろん、原文を読んであなたたち自身が、自分にとってはこういう教訓だな、と自分流の解釈をしてみたらよいと思います。今のはほんの一例として参考にしてみてください。
 ともかく、実際の戦いでも、勝つためには相当いろんな準備をしなければならないことが、この書物にとても具体的実践的に書かれています。

単に力任せや数任せではダメなのです。

実際の戦争でも、巨額のお金がかかるので、その配分計算は緻密(ちみつ)に行わないといけません。単に兵力や武器をたくさんそろえればよいわけでなく、食料や衣料、燃料などの補給(「兵站(へいたん)」と言います)をいかに確実に整えるか、が実は最重要の課題です。

 こうしたいろいろな側面について、自分はどんな状態か、敵のほうでは十分そろっているか、を知ることが必要だというわけです。

 「彼を知り己を知れば百戦殆(あや)うからず」という超有名なこの言葉は、そういう意味として味わってください。