『シン・ウルトラマン』が突きつけるもの(ややネタバレあり)

(校舎だより『FlyingSeeds』6月号より)

個人的にライフワークとしている「心意伝承」研究の師である故上原輝男博士の高弟の中に、脚本家の金城哲夫氏がいました。「ウルトラマン」の原作者であり、筆頭脚本家でした。

米軍による沖縄上陸作戦の猛火にさらされた経験も持つ金城は、上原博士の下で存分にイメージ世界を広げ、磨きをかけてゆきました。
大学卒業後は博士の紹介で円谷プロダクションに参入し、「ウルトラマン」を世に送り出したのです。

琉球神話の「ニライカナイ」の様な聖なる異世界から英雄は現れる。
日頃は蔑視される存在でありながら、火急の時は変身(本性示現)して(禍威獣)を退治する。
そして物言わず夕日のかなたに飛び去る。
哀愁あるその後ろ姿は、古来様々な形で神話伝説昔話で語り継がれてきた英雄や快男児たちの姿でもあります。
誰かに教わったわけでもないのに、私達の心を慄(ふる)えさせる、
そんな集団的心意伝承を結晶させたものが、「ウルトラマン」なのでした。

描かれていたのはそのような異世界人と現世人との融合。
自然環境破壊や、核兵器のような大量破壊ツールをもてあそぶ人類への反撃としての怪獣活動。
「正義」の所在の不確定性。
目を背けるわけにはいかない諸問題をのど元に突き付けられもしました。

こうしたオリジナルの世界観を受け継ぎ、さらに深化させようとした庵野秀明脚本の映画『シン・ウルトラマン』が公開された今年2022年5月13日は、
奇しくも沖縄返還50周年の5月15日とほぼ同じタイミング。
沖縄の「本土復帰」を希求していた金城哲夫が生きていれば、複雑かつ深遠な心持でこの状況に立ち会ったことでしょう。

『シン・ウルトラマン』では、人類同士を争わせ滅亡後に地球を入手しようとする勢力と、
人類をウルトラマンのように巨大化させ生物兵器資源として独占管理しようとする勢力、
そして強圧的な平和主義の立場から、生物兵器資源の産地である地球を廃棄処分しようとする勢力によって、
地球は危険にさらされます。
まさに米中露の三大国に翻弄される日本と、その中の沖縄のアナロジー。

地球人と融合したウルトラマンは、外星人たちにとっては裏切り者ですが、
異質な者同士が一つに結びつき合える可能性をも、宇宙全体に知らせました。

沖縄と日本本土との懸け橋になろうとした金城哲夫の思いを、庵野秀明氏は気宇壮大に再構築し、
私たちに突き付けてきました。

力あるものの前で思考停止し、隷従を選択するのか、と。